
フィギュアスケーターから、
経営者の道へ
異色のキャリアが価値になる組織
辻 馨
株式会社ライスカレープラス代表取締役
株式会社MUSCAT GROUP 執行役員
フィギュアスケーターから、
経営者の道へ
異色のキャリアが価値になる組織
辻 馨
株式会社ライスカレープラス代表取締役
株式会社MUSCAT GROUP 執行役員
Profile
2021年7月より株式会社ライスカレー上級執行役員に就任。2025年7月、同社が株式会社MUSCAT GROUPへと社名変更したことに伴い、株式会社MUSCAT GROUP執行役員を兼任。さらに同月、旧ライスカレーのマーケティング事業およびSaaS事業を継承する形で設立されたライスカレープラスの代表取締役に就任。
Instagram/X/TikTokなど、SNSを活用した企業コミュニティマーケティングの企画・形成・運営を主軸に、これまで3,500社以上のSNS設計に携わる。ファン/コミュニティを起点としたマーケティング戦略を得意とし、企業とユーザーの関係性を深める施策立案に強みを持つ。
幼少期からフィギュアスケートを16年間やり続け、全日本選手権に出場。前職はプロスケーターとして、ROYAL CARIBBEAN INTERNATIONAL社と契約しカリブ海を巡る大型豪華客船のアイスショーに出演。
かつてフィギュアスケート選手としてオリンピックを目指し、世界を舞台に戦っていた男がいる。彼は今、氷の上ではなく、目まぐるしく変化するSNSマーケティングというビジネスの最前線に立っている。
株式会社MUSCAT GROUP(以下、MUSCAT GROUP)の執行役員であり、グループ企業の1社としてSNSマーケティング事業などを展開する株式会社ライスカレープラス(以下、ライスカレープラス)の代表取締役を務める辻馨だ。
彼のキャリアは、一見すると脈絡のない「飛躍」の連続に見えるかもしれない。しかし、その特異なキャリアの裏には、彼なりの一貫した哲学があった。キーワードは「希少性」。彼はどのようにしてビジネスという新たなフィールドで希少性を確立し、組織を成長させてきたのか。
辻の思考と選択の軌跡、そしてビジネスパーソンとしての進化に迫った。
「世界で唯一の存在」になるために選んだ道
MUSCAT GROUPに入社する前は、フィギュアスケート選手だったとうかがっています。一見、かなりの飛躍があるキャリアに思えるのですが、辻さんの中でキャリア形成の軸になっている考え方などはあるのでしょうか。
僕がこれまでの人生で強く意識してきたのは、「希少性」という言葉です。言い換えれば、「唯一無二の人材になる」ということですね。 一見バラバラに見えるかもしれませんが、僕の中では、フィギュアスケートを選択したことも、MUSCAT GROUPに入社したことも、すべては自らの「希少性を高める」ための選択であるという点で共通しているんです。

どういうことでしょうか。
入社を決めた経緯をお話ししたほうがわかりやすいかもしれません。
僕は愛知県名古屋市で生まれ、フィギュアスケートが盛んな土地柄ということもあり、幼少期にフィギュアスケートを始めました。それからスケート漬けの日々を送っていたのですが、大学時代にシングルの選手を辞め、アイスダンスに転向することになります。転向のタイミングで大学を休学し、練習拠点を関東や海外に移したのですが、最終的には目標としていたオリンピックに手が届かず、引退することに。
引退後は、休学中だった大学に戻ろうと考えていたのですが、復学のためにはお金が必要で、短期間でまとまったお金を稼げる方法を探したところカリブ海を巡る豪華客船で行われるアイスショーがあり、選考を受けて働けることになったんです。それから1年間はアメリカを拠点にジャマイカやメキシコなど、カリブ海の国々を巡る船の中でアイスショーに出演する日々を送りました。
そして帰国し、「資金もできたし、大学に戻ろうか」と考えていたタイミングで、知人から連絡をもらったんです。 「知り合いの中で一番優秀な人が会社を立ち上げて、人材を募集しているみたいだから、話を聞いてみたら?」と。 「とりあえず話だけでも聞いてみるか」という軽い気持ちで、その知人につないでもらい「一番優秀な人」に会いに行ったんです。それが、大久保さん(MUSCAT GROUP代表取締役 大久保 遼)との出会いです。
そこで、MUSCAT GROUPを知ったわけですね。
はい。大久保さんが語るビジョンはとても魅力的でワクワクしましたし、「東大卒業後、ゴールドマンサックスに入社し、その後、起業とバイアウトを経験」という経歴からはかけ離れた、柔和な人柄に惹かれました。
そうして「復学することが、今後にとって最良の選択なのか」ということを考えるようになりました。「大久保さんの下で新しいチャレンジに挑む」という選択肢を意識するようになり、過去を振り返ってみたところ、「希少性」が自分の価値の一つになっていたことに気が付いたんです。具体的に言えば、絶対数が少ない「フィギュアスケート選手である」ということが、多くの人との出会いを呼び寄せ、仲を深めるきっかけになっていた。
そして、この希少性を磨き続けることが、自分の価値をさらに高めることになるのではないかと思いました。仮に「フィギュアスケート選手として活躍後、SNSマーケティング事業を展開するベンチャー企業に入社し、役員にまで上り詰めて上場を果たす」というキャリアを描ければ、それはもう間違いなく世界で唯一のものになると思いましたし、そこに「同志社大学卒業」という経歴は必要ないなと。そんな考えから、MUSCAT GROUPに飛び込むことを決めたんです。

未知の領域「だからこそ」の戦い方で価値を発揮する
そうして、入社したのが2017年4月ですよね。SNSマーケティングはもちろん、ビジネスの経験もなかったと思うのですが、どのようにスキルをつけていったのでしょうか。
マーケティングや広告に関する知識は全くなかったので、大手代理店の方々との会議では、会話についていくことすらできませんでした。最初は、とにかく自分で調べたり、現場で見よう見まねで知識を吸収したりするしかありませんでした。
ただ、スポーツをやっていた人間に共通することかもしれませんが、僕は死ぬほど負けず嫌いなんです。できない自分、知らない自分に対する憤りを原動力に、必死に知識を詰め込んでいきました。
その一方で、既存のマーケティングに関する知識を詰め込むだけではいけないとも思っていました。SNSの世界は、変化のスピードが異常に速い。既存のマーケティング用語や過去の成功法則を知っていることよりも、この「新しい変化」を誰よりも早くキャッチアップし、どう向き合うかを考える方が、価値を出しやすいのではないかと考えたんです。
経験や知識以外の要素で勝負をしようと。
そうですね。当時は、まだまだSNSマーケティングの勝ちパターンも確立されていませんでしたし、MUSCAT GROUPもまだ人数の少ない会社で、自分たちでゼロから事例をつくり、売り上げを伸ばしていかなければならないフェーズでした。マニュアルもなければ、正解もない。 そういった混沌とした環境下で、「新しい領域の開拓者」という役割は、自分にすごくハマった感覚がありました。

手応えを感じたのはいつ頃ですか?
入社1年目から2年目に差し掛かる頃、大きな成果を出せた時ですね。 元々、MUSCAT GROUPのSNSマーケティングは、UGCを活用しようという発想からスタートしています。 「企業が発信する広告よりも、一般の方の発信の方が信頼されるだろう」という考え方ですね。
しかし、次第にインフルエンサーのみなさんが大きな影響力を持つようになっていきました。そうして、その影響力を活用するインフルエンサーマーケティングが流行するわけですが、従来のインフルエンサーマーケティングでは、インフルエンサーのみなさんに「拡散者」としての役割を担ってもらう場合が多いですよね。
でも、彼らの本質的な価値はそこだけじゃない。彼らは、見る人を惹きつける魅力的なコンテンツをつくることができる「クリエイター」でもあるんです。
「拡散力」ではなく「制作力」に目を向けたと。
そうです。企業の公式アカウントの運用において、インフルエンサーのみなさんに拡散ではなく、「コンテンツ制作」を担ってもらう。 その仕組みを思いつき、当時担当していたクライアントに提案したところ、これが非常に大きな成果につながりました。

制作事例:エース株式会社「Proteca」
「勢い」と「信頼」で、新しい勝ちパターンを生み出し続ける
MUSCAT GROUPにはもちろん、世の中にもそのような仕組みはなかったのでしょうか?
そうですね。少なくとも当時は一般的ではありませんでした。 世の中に事例がなく、数値的根拠もない新しいことをクライアントに提案するのは勇気がいりますが、クライアントに対して、「正直、うまくいくか分かりません。前例がないので」と正直に言います。
その上で、「でも、もし数値がよければ御社のためにもなりますし、一緒にチャレンジしませんか」と持ちかける。 そうして新たな事例を生み出し、それを別のクライアントにも展開する。ひたすらその繰り返しでした。
このスタンスは、大久保さんの影響が大きいですね。大久保さんはフットワークが軽く、発想が柔軟です。 クライアントとのミーティングの場で、「こんな方法もありますよ」と、世の中の誰も試したことがないであろう方法を平気で提案してしまう(笑)。言ってしまったら、やらなきゃならないじゃないですか。強制的にそういった状況をつくることで、まったく新しい成功パターンを生み出していくんです。 「見切り発車でも、走りながら形にすればいい」ということを、彼から学びましたね。

「まずは試してみる」ことで、多くの実績をつくってきたわけですね。
もちろん、ただ無責任に提案するわけではありません。もし失敗しても「次はこうしましょう」と互いに前を向けるような関係値をつくっておくことは大前提です。 もしうまくいかなければ、うまくいかなかったことは素直に認めつつ、「でも、この失敗でこういうデータが取れたので、次はこう改善できます」と、必ず「お土産」を用意する。
そうやってクライアントと一緒にPDCAサイクルを回していくんです。 失敗を隠さず、糧にしながら、SNSマーケティングにおける勝ちパターンをつくってきたつもりです。
「260%成長」の秘密は、「『質』の分担」にあり
そうして成果を積み上げ、2019年には入社3年目にしてソーシャルメディア事業部の部長に就任されたとうかがっています。
そうですね。部長を任せられたことが、ビジネスパーソンとしての大きな転機になりました。 僕はもともと、何らかの目的を達成するための構造や仕組みを考えるのが好きなんです。いちメンバーだった時代は、自分の売上を最大化するための仕組みをつくっていましたが、組織を任されたことで、より大きな仕組みを考えるフェーズに入りました。 最初は5人ほどの小さな組織でしたが、自分一人の成果ではなく、チーム全体の成果を最大化するにはどうすればいいかを四六時中考えていました。
たとえば、僕が部長に就任する以前は、アカウント運用代行の細かなメニューの金額設定が曖昧で、クライアントから要望をいただく度、担当者が都度部長に相談して金額を決める必要がありました。それが非常に非効率で、現場のスピード感を落としていると感じていました。
そこで、自分が部長になった際、すべてのメニューと金額を明確に決めてパッケージ化したんです。これによって、メンバーは自分たちの裁量で交渉や調整ができるようになり、事業のスピードが向上しました。ある程度の歴史がある会社においては当たり前の仕組みかもしれませんが、当時のMUSCAT GROUPはそんな「当たり前の仕組み」を整えるフェーズにあったのです。そういった足りない部分を一つひとつ潰し、みんなが働きやすい環境を整えていきました。さらに、メンバー個々の強みを活かすため仕組みを整えたことが、大きな成果につながります。

「メンバー個々の強みを活かすための仕組み」とは、どのようなものなのでしょうか?
アウトプットの「質」に関する責任を分担する仕組みにしたんです。 SNSマーケティングにおいて、コンテンツの「質」は命です。しかし、案件を管理するディレクターは、日々のクライアント対応や進行管理に追われ、多忙を極めています。その中で、ディレクターだけに最終的なアウトプット品質担保の責任を負わせると、どうしてもクリエイティブの質が落ちてしまう。これは構造的な課題でした。
そこで、「質」を担保する役割を分担することにしたんです。たとえば、従来のデザイナーの役割は、「ディレクターからの指示通りのデザインをすること」でしたが、よりアウトプットの質と成果にコミットしてもらうことに。
デザイナー自身がSNSマーケティングの全体像を学ぶように指導し、役割を変えたんです。
デザイナーだけではなく、プロジェクトに関わる各メンバーがディレクター視点を持ち、最終的な成果にコミットする体制を整えることでアウトプットの質が担保されるようになった。これはあくまでも一例ではありますが、さまざまな取り組みの結果、僕が部長に就任した2019年の部の売上は、前年比264%を記録しました。
成長の鍵は、アスリート時代に磨いた「PDCAサイクルを高速で回す感覚」
2025年7月にはライスカレープラスの代表取締役に就任されました。入社からわずか8年で経営を担う人材へと成長を遂げた、環境的な要因はどのようなものだと考えていますか。
「密度」と「自由度」だと思います。 大きな会社であれば、既に正解とされているプロセスやマニュアルがあり、まずはそれをなぞることから始まります。それは組織として効率的ですし、失敗のリスクも低いので、間違っているとは思いません。
ただ、僕個人は「これを試したい」「あれをやってみたい」と自らが考えたことを試し、成功と失敗を繰り返すことで成長するタイプだと思っています。そして、MUSCAT GROUPには、「やりたいならやっていいよ」と背中を押してくれる環境があった。
失敗してもいいから、まずはやってみる。その裁量の大きさとスピード感が、僕には合っていました。 感覚としては、通常なら3年、5年かけて経験することを、わずか2年ほどで経験したイメージですね。この「経験の密度」の高さは、MUSCAT GROUPならではだと思います。
「経験の密度」を高めるために、意識していたことはありますか。
PDCAサイクルを高速で回すことです。その上で活きたのが、フィギュアスケートの経験です。フィギュアスケートは、「技術」だけではなく「見栄え」も勝敗を分ける重要な要素です。見栄えをよくするためには「もっとつま先をこうしてみた方がいい気がするな」とか「このシーンでは、指先は少し曲げた方がいいのではないか」といった、自らの感覚とそれが観客や審査員からどう見られるかの意識がすごく重要なんです。その感覚を信じて、とても細かな調整を無限に繰り返していく。フィギュアスケート選手時代は、その繰り返しでした。
そうして体得したPDCAサイクルを高速で回す感覚と、MUSCAT GROUPの自由度が高い環境が掛け合わさったことで経験の密度がぐっと高まり、大きく成長できたのだと思っています。
かつては個人競技のアスリートとして「自分のため」にPDCAサイクルを回し続けていましたが、現在は「会社への貢献」を感じられる瞬間の方が楽しいですね。得意なことで貢献し、不得意なことは仲間に助けてもらう。そんな組織ならではのダイナミズムを心から楽しんでいます。

最後に、今後の目標を教えてください。
これまでの延長線上にはない、非連続的な施策やサービスを生み出したいと思っています。
事業は順調に成長している一方、以前と比べると自分の視野が少し狭まっているような感覚があるんです。これまでSNSマーケティングという領域のなかでさまざまな事例を生み出し、手札を増やしてきましたが、どうしても発想がその「手札の中」に留まりがちになっているんです。 「インスタでこうしよう」「TikTokならこうだ」と、これまでの延長線上で物事を考えている感覚がある。
事業部長としてはそれでよかったかもしれませんが、経営者として会社を成長させるためには、より広い視野でビジネスを捉えなければならないと感じています。これまでの知見や財産は活かしつつ、「これまで」の延長線上にはない、全く新しい価値を生み出していきたいです。

Daily
Schedule
1日のスケジュール
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10:30
出社
メールや社内チャットの確認など
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11:00
クライアントとのミーティング
レポーティングの同席や提案に向けたミーティングへの同席
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12:00
協業先とのミーティング
新しいサービス開発に向けた協業先の模索や内容の精査など
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13:00
ランチ
たこ焼きなどハンバーガーなどジャンクなものが好き
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14:00
社内の各課とのミーティング
セールス課との売上戦略管理など
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15:00
社内の企画ミーティング
予算の大きい提案の企画を実施
-
17:00
社内の企画ミーティング
別の企画に関するミーティング
-
19:00
業務進捗確認・戦略検討
メールの確認、予算管理、各課の課題や方向性について確認・検討
-
20:00
終業

