
グローバル・ニッチへの挑戦
ブランドの自律性を保ちながら、
成長を拡張する経営統合


Introduction
人気コスメブランド『Fujiko』などを展開するかならぼが、MUSCAT GROUPにジョインした。両社の接点にあったのは、次の成長余地をいかに広げるかという視点。経営統合に至った背景と、その先に見据える「グローバル・ニッチ」戦略を、両代表の対談から紐解く。
Project Member
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大久保 遼
株式会社MUSCAT GROUP 代表取締役
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和田 佳奈
株式会社かならぼ 代表取締役
MUSCAT GROUPに人気コスメブランド「Fujiko」を展開する株式会社かならぼ(以下、かならぼ)が参画することが発表されたのは、2025年10月。
かならぼを率いる和田佳奈は、一人の経営者として、会社の成長のため、そしてメンバーの幸せのためにM&Aという決断を下したという。では、なぜ買収先として株式会社MUSCAT GROUP(以下、MUSCAT GROUP)を選択したのだろうか。
本記事では、和田に加え、MUSCAT GROUP代表取締役である大久保遼を迎え、対談を実施。M&Aの経緯と2人が見据える未来について語ってもらった。
和田がMUSCAT GROUPに寄せた「信頼」と、大久保がかならぼに見出した「可能性」が起点となったM&A。両社が織りなすのは「グローバル・ニッチ」への物語である。

成長の裏にあった、「経営者」としての葛藤
まずは、かならぼの創業からこれまでの歩みについて教えてください。
和田
かならぼは2015年に創業し、翌2016年に自社ブランドである「Fujiko」を立ち上げました。そして、最初にリリースした「眉ティント」というアイテムが、半年で80万個売れる大ヒットとなったんです。その後、「ポンポンパウダー」や「あぶらとりウォーターパウダー」などの製品をリリースしてラインナップを拡充すると共に、「b idol」や「GALLZ」などのブランドを立ち上げ、現在に至ります。

創業当初から、明確な勝算や戦略があったのでしょうか。
和田
創業当初から、「大手メーカーと同じような商品をつくるだけでは、私たちの存在意義がない」と考えていました。 私たちのような規模の小さい企業こそ、大手がまだ手をつけていない、あるいは見落としているニッチな市場を攻め、そのなかでスピード感を武器に戦っていかなければならないと。
特に最初のヒット作となった「眉ティント」は、まさに「大手が手をつけていないけれど、間違いなく消費者が求めている商品」でした。そういったニッチな領域を攻める姿勢こそが、最初から意図していたブランディングであり、かならぼの強みでもあります。

そんなかならぼが、2025年10月、MUSCAT GROUPに加わりました。M&Aはいつごろ、なぜ検討し始めたのでしょうか。
和田
M&Aという選択肢を意識し始めたのは、2023年頃です。そもそも私は、とにかく「商品をつくること」が好きだからかならぼを立ち上げただけで、「経営者」になりたかったわけではなく、数字に強いタイプでもありません。
ただ、大好きな商品づくりに没頭する中で、気づけばそれなりの年数が経ち、社員数も増えてきました。そんな時、ふと立ち止まって考えたんです。「会社に対して、そして社員に対して、私は責任を果たせているのだろうか」と。社員たちの今後の幸せやキャリアを考えた時、「私一人の力では、これ以上会社を成長させるのは無理かもしれない」という限界を感じ始めました。
具体的には、どのような課題を感じていたのですか。
和田
経理や財務、あるいは組織づくりなどの、いわゆるバックオフィス全般ですね。また、私たちはこれまで卸販売をメインにやってきたので、ECの領域に関しては正直なところ素人に近い状態でした。「もっとECを強化できるはずなのに」というもどかしさもありました。
私たちの弱いところを補いながら、一緒に戦ってくれる仲間が欲しい。そんな想いが、今回のM&Aの出発点でした。
「完成されすぎていない」からこそ、共に戦う意味がある
一方で、MUSCAT GROUPとして、かならぼに注目した理由は何だったのでしょうか。
大久保
一言で言えば「私たちのM&A戦略にマッチしていたから」です。
私たちは2025年7月、社名をMUSCAT GROUPに変更し、ブランドプロデュースカンパニーとしてB2C商材に注力しています。その戦略の柱は大きく二つ。一つは既存のブランドを買収すること、もう一つはOEMメーカーなどの「ものづくり」に強みを持つ企業を買収し、その強みを活かして新たなブランドを立ち上げることです。
そんな中、現在はM&Aのアドバイザーをしている新卒時代の先輩から、「売却を検討している会社がある」と紹介を受けたのが、かならぼでした。そして、売上規模などを聞いたところ、いまのMUSCAT GROUPに必要な、素晴らしいブランドだなと思ったんです。
というのも、これまでは比較的小規模なブランドを持つ会社を買収し、共にブランドを育てることが多かったのですが、グループとしての成長を加速させるためには、もう少し大きなブランドが必要だと感じていました。 その点、かならぼさんは、すでにニッチトップの地位を確立しており、ある程度の規模がある。それでいて、まだまだ伸ばせる余地があると感じたんです。

具体的には、どのような部分に伸びしろを感じたのでしょうか。
大久保
M&Aアドバイザーからさまざまな情報を聞く中で伸びしろを感じたのは、営業利益率ですね。在庫管理などをもっと効率化すれば、より高い利益率を実現できると思いましたし、あとは和田さんがおっしゃったように、ECですね。
当時、かならぼのEC売上比率は8%ほどで、業界水準が20%ほどですから、まだまだ引き上げる余地があった。MUSCAT GROUPのリソースや知見を投入することで、大きな変化を生み出せると確信できたことが、M&Aを進めるという決断をくだす上で非常に大きかったですね。
買収する立場から言えば、「完成されすぎている会社」はあまり魅力的ではないと思っています。なぜなら、買収後に変化を起こせる余地がないから。もちろん、「完成された会社を買収した方がいい」という考え方もありますが、僕は買収「した側」と「された側」の双方が「いいM&Aだった」と感じるためには、明確な変化が必要だと考えています。
「された側」のメンバーに「買収されたけど、何も変わらないじゃないか」と思わせてしまうと、モチベーションが維持しづらくなってしまい、互いにとって幸せな結果にはなりません。
マニュアル通りの交渉ではなく、「本音の対話」が信頼を生んだ
お二人が実際に初めて会われたのは、いつ頃だったのでしょうか。
和田
2025年の5月か6月頃ですね。当時、何社かとお話ししていたのですが、その中でもMUSCAT GROUP、というより大久保さんの印象が強烈に残っています。
というのも、大久保さんから「一回、マンツーマンで会いましょう」と提案があったんです。
いきなりトップ同士の1on1ですか。
和田
そうなんです。そんな提案を受けたことはなかったので、「おもろっ」と思いましたね(笑)。
そうしてお会いしてみたら、冒頭から「腹を割って話しましょう」と。 M&Aの交渉ってお互いに探り合いですし、基本的には「いい面」しか見せないじゃないですか。でも大久保さんは違いました。最初からフラットで、嘘がないと感じました。「この人は信頼できるぞ」と直感したことを覚えています。
大久保
私たちが他の買い手候補と違ったのは、会社の規模がそれほど大きくないという点です。MUSCAT GROUPにとって、かならぼさんの買収は投資金額も大きく、社運を賭けた勝負だったんです。だからこそ、表面的な情報ではなく、実態をちゃんと把握したかった。
特に確認したかったのは、和田さんのモチベーションです。より具体的に言えば、「買収後、どれだけかならぼの事業に本気で取り組もうと考えているのか」が知りたかった。「本気度が高ければならない」と思っていたわけではありません。M&A成立後、売り手側の経営者が一線を退きたいと思っているのであれば、それはそれでこちらのやり方を変えるだけですから。ただ、「本気度」を知らない限り、買収成立後の方針が決められないので、正確に把握しておく必要があります。

そんな一対一の対話を踏まえて、M&Aを前に進めることになったのでしょうか。
和田
そうですね。他の会社さんとの面談では、言葉ではいいことを言ってくれても、「結局、一緒になった後は雑に扱われるんじゃないか」「今が熱量のピークなんじゃないか」と感じてしまうことがありました。
でも大久保さんからは、「本気で一緒にかならぼを良くしていこう」という思いが感じられたんです。さらに言えば、面談の後日、MUSCAT GROUPの役員の方々を紹介してくれたのですが、みなさんとお会いして、さらに「一緒に戦っていける」という確信を強くしました。
みなさんから感じたのは、「MUSCAT GROUPのやり方はこうだ」と押し付けるのではなく、こちらの考えややり方を理解しようとする姿勢です。数字重視の、ドライな世界になりがちなM&Aにおいて、そういった人間味や相性の良さは、私にとって非常に重要な決定打となりました。8月の初めには、売却先の候補をMUSCAT GROUPに一本化し、交渉を進めていました。
数字の“見える化”がクリエイティブを加速させる
2025年10月にM&Aが成立し、そこから約1ヶ月が経ちました。この短期間で、どのような取り組みをされてきたのでしょうか。
大久保
まず着手したのは、総務、労務、経理といったバックオフィス業務を、上場企業の基準に適応させる「守りのPMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)」ですね。
一方で、従来であれば「守り」が整ってから始める「攻めのPMI」——つまり売上の拡大や利益率の改善に向けた施策も、今回は並行して走らせています。 この1ヶ月で予算策定を行い、MUSCAT GROUPのどのチームのリソースをどれくらい投入するか、利益率を上げるために何をすべきかといった「打ち手」の準備は整いました。かなりスピード感を持って進められている手応えがあります。
和田さんから見て、かならぼにはどんな変化がありましたか?
和田
先ほどお話しした通り、私は数字に弱く、感覚に頼る部分も多くありました。「メンバーのみんなが食べていければOK」くらいのざっくりとした数字管理しかしていませんでしたが、この1ヶ月で劇的に変わりました。
会社の数字がどう繋がっていて、どういう仕組みで動いているのか。それが「見える化」され始めたんです。さらに、数字が可視化されたことで、個々のメンバーが行っている業務のつながりも明確になりました。そして、さまざまなことがクリアになったことで、新しいアイデアが浮かびやすくなったんです。まだ慣れないことも多く、頭はパンクしそうですが、新しい学びがあって楽しいです。

大久保
実は和田さんの目が行き届いていないゾーンがあり、そのゾーン——具体的には経理などですね——は、かなり混沌とした状態になっているのではないかと思っていたんです。でも、蓋を開いてみれば想像以上に整っていた。これは嬉しい誤算でしたし、これがよいスタートを切れた要因の一つだと思っています。
今後、かならぼの前にはどのような壁が生じうると考えていますか。
大久保
かならぼが展開するすべてのブランドが、右肩上がりに成長するに越したことはないのですが、そう上手くはいかないと思っています。
以前、複数のブランドを展開する会社を買収した際、あるブランドの売上が下がったときに「(その企業が展開する)他ブランドの売り上げでカバーする」ことばかりにリソースを集中させてしまい、前向きな議論が出来なくなってしまったことがありました。その結果、その企業全体の売上がシュリンクしてしまった。これは二度と繰り返したくありません。
かならぼもまた、複数のブランドを展開しています。もし、あるブランドの売上が何らかの理由で下がってしまったとき、和田さんの思考が“応急処置”ばかりに向いてしまい、本来リソースを割くべき新たな商品の企画がおろそかになってしまっては本末転倒です。
いかにその課題を乗り越えたいと考えていますか?
大久保
グループ全体でカバーしたいと考えています。現在のMUSCAT GROUPの強みの一つは、多様な企業を傘下に収め、数多くのブランドを展開していることです。そして僕自身、最終的には連結の目標数字をクリアできればいいと考えているので、仮にかならぼ内のあるブランドが苦戦しても、グループ内の他のブランドで補うことができる。
そう割り切ることと併せて、僕たちがしっかりと管理面をサポートする体制を構築することで、和田さんには常に未来志向で商品の企画に集中してもらえる環境をつくりたいと考えています。
統制と自由のバランスを保ち、ベンチャーならではのスピード感を維持する
和田さんは、今後の課題をどのように捉えていますか?
和田
私としては、社員のモチベーションを注視しています。今はM&A直後で、新しいことが始まった高揚感に包まれている状態だと思っています。だからこそメンバーたちも、多少つらいことがあっても前向きに走り続けられる。だけど、現在の状態が日常になったとき、ふと息切れしてしまう瞬間があるのではないかと思っているので、そこのケアはしっかりしていきたいですね。
大久保
あとは、厳しく統制するあまり、スピード感を毀損することだけは避けなければなりません。多くの日本企業の大企業がM&Aに失敗する理由はそこにあると僕は考えています。
もちろん上場企業として、一定の水準は求めますが、ガチガチな内部統制を敷くつもりはありません。経理と労務、つまり「お金」と「メンバーの健康」さえちゃんと守られていれば、それ以外は基本的に自由でいいと思っているんです。 たとえば、商品企画の意思決定にMUSCAT GROUPは口を出しません。かならぼの武器であるスピード感を殺さないためにも、しっかりと権限を委譲し、それぞれの強みを発揮し続けられる環境を整えていきたいです。

さらに大きなシナジーを生み出し、目指すは「グローバル・ニッチ」
最後に、今後の展望をお聞かせください。
大久保
何よりも、すべての関係者が「意味のあるM&Aだった」と思える未来を実現したいです。和田さんにとっても、かならぼのメンバーにとっても、「売ってよかった」「仲間になってよかった」と感じられる状態をつくり続けること。それができれば、このM&Aは成功したと言えるのではないでしょうか。
そのためにも、日常的なコミュニケーションを怠らず、お互いの「譲れないライン」や「到達したい未来」を常にすり合わせ続けたいと思っています。
和田
私としては、化粧品にとどまらず、他カテゴリーの商品づくりにもチャレンジしていきたいですね。そのためにも、MUSCAT GROUPの力を借りながら、より強固な経営基盤を構築していかなければなりません。
大久保
そうですね。ファイナンス面などの強化は進めつつ、海外にも打って出たいと考えています。既に、かならぼの売上の2割程度は中華圏で生み出されていますが、グループ全体として海外売上比率を高めたいと思っているので、かならぼにはその牽引役を担ってもらいたい。
MUSCAT GROUPは「Difference for the Future」というミッションのもと、ニッチトップ戦略を掲げていますが、「ニッチ=小さい」ではないんです。ニッチ市場に特化し、そのグローバル市場で高いシェアと競争優位性を確立している企業やブランドを指す「グローバル・ニッチ」という言葉があります。
たとえば、ティファニー。ラグジュアリーブランドの商品を購入できる人は限られていますよね。そういった意味で、ティファニーが攻めているのはニッチ市場です。だけど、決して「小さな」ブランドではありません。むしろ、グローバル市場で大きな存在感を放つ、巨大ブランドです。つまり、「ニッチ」を積み重ねれば「大きく」なる。そしてそのためには、世界に打って出ることが不可欠なんです。
もちろん「ティファニーのようなラグジュアリーブランドを目指す」という意味ではありませんが、Fujikoをはじめとするかならぼのブランドが、コスメの枠を超えて広がっていく時、その先にあるのは「グローバル・ニッチ」への道だと思っています。 それぞれの強みを活かし、世界で戦えるブランドへと成長させていきたいですね。



